Little AngelPretty devil
                〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

   “春待雨”


夜半にふと目が覚めて、
何に起こされたのかが判らず、
判らないのが引っ掛かって、寝直すことが出来なんだ。
油を倹約せねばなどと思うほど殊勝だったり、
遅くまで意味なく起きてるなんて不摂生だと思うほど、
倫理的に堅かったり…はしないので、
早寝をしたつもりはなかったが、
だからといってこの寒空に通い参るアテなぞ有りもせず。
炭櫃を挟んでの差し向かい、
いつもの不景気な顔を相手に、
他愛ないこと語り合ってただけのこと。
それから……それから、
確か今宵は、寒いのを言い訳にして、
向こうから寄って来たのだったっけか。

 “………寒い、かな?”

さすがに神祗官補佐の住処である以上、単なるあばら家ではなく、
あちこちに咒をかけてあるそのついで、
御利益だか霊験だかのある篝火も焚いてあっての、
当世の時分の夜であるのに 完全な闇ではないものだから。
まぶたの裏という闇に馴染んでいた目には、
暗い室内も何とはなく見渡せて。
邪妖への対処はともかく、
隙間風はあちこちから自在にご入来なボロ家だのに、
大きめの上掛けの中はほこほこと暖かい。
冬の雨といえば、
いつみぞれに変わってもいいような、
足元からの冷えをともなう、じんじんと冷たいそれのはずだが。

 “今宵のは そうではなさそうだの。”

さらした肌へと触れるは、しっとりした感触で。
垂れ込めた夜気も どこかぬるい…ような気がするし。
そろそろ暖かい雨とやらが降る頃合いに、
じりじり なりつつある時節なのだろか。
それとも……。

 “…。//////////”

綿入れの大掻い巻きの中、
剥き出し同然にはだけた胸元が間近にあって。
この乾いた季節にも しとりと懐っこい感触がするのは、
人ならぬ身の男だからか、それとも。
幾刻か前まで一緒にくるまっていた、
切なる微熱の名残りだろうか。
こっちは総身のあちこちに、
疲弊に気だるい節々や、
いまだつつけば燃え立ちそうなところがあったりするのに。
そうまで弄ったその挙句、
こっちの意識を毟り取った張本人のくせをして、

 “間抜けな顔しやがってよ。”

緊張感など欠片もないのを、どう解釈すればいいのだか。
ただただ無心に眠る男のお顔の、
されど、精悍さの滲む男臭い面立ちへ。
ついつい視線が止まってしまう自分の、
物欲しそうなところこそ、

 「…っ。」

我に返って 舌打ち呼ぶほど癪だったりもして。
大邪のくせに、蟲妖の総帥なんだろに。
そんなまで和んだ顔して寝てんじゃねぇよ。
日輪去った夜中こそ、お前らの天下じゃねぇのかよ。

 「ほんのついさっきまでは、好き放題さしてもらったがな。」
 「…っ!」

思わぬ間合いに響いた声。
低められてはいたが、それでも唐突だったには違いなく。
ぎょっとした細おもてを、大きな手のひらが掬い上げ。
それから、やはり剥き出しのままだった肩を引き寄せて、
自身の懐ろの深みへと招きいれ。
愛しい痩躯、手慣れた様子で暖かく くるみ込む。

 「……いつから。////////」
 「ん〜と。
  お前がもそもそし始めて、
  周り見てから、人の顔見上げてた辺りからかな。」

大きな手もまた、仄かにしっとり懐っこい感触がし。
頬を埋める雄々しい胸元には、
情事の後の生臭さはとうに去っての、
暖かい匂いしか染みていず。
かすかな身じろぎに力強くうねる筋骨の感触が、
いかにも武骨で、だのに、だから?
限りない安心安堵を齎す不思議を感じて、
我知らず 口許がほころんでしまう至福の、
何とも言えず甘いこと。

 「………ん。///////」

ねだるよに煽るよに、目許ほそめて見上げれば。
意はたやすく通じての、大きな手が頬をくるんでくれて。
やさしく口吸う男の寛容が、
何とも言えず心地よかったはずだのに……。


 「厠なら抱えて連れてくが?」


何せ責任あっしよと、余計な言いようしたもんだから。
せっかく…雰囲気のいいお声に酔いかけての、
気分よく寝直せるかもと思いかけてた御主様。

 「…っ!!///////////」

たちまち怒髪天を突いてしまわれ、
はてさて、長い寒夜をどうされるおつもりか。
(しとみ)の外では、開いたばかりの椿らが、
怖や怖やと濡れた身を縮めてる、
そんな甘い雨の夜………。





  〜Fine〜 09.02.23.


  *何とか宥めて穏便に寝直して下さいませね?
   こんな理由で風邪ひいちゃったらシャレになりませんゆえ。
(笑)

  
めーるふぉーむvv
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